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予防歯科
当院での予防歯科は、患者さんにも理解しやすいように、できるだけシンプルに処置・指導を行っています。
主に、「口の中の細菌(歯石)の除去」「歯を守るために必要な情報提供」を行います。
細菌の除去に効果的な処置の1つに、歯石除去が挙げられます。
歯石除去は歯周治療に分類され保険診療で処置が可能な上に、細菌除去の観点から予防効果が高いので、治療兼予防処置としてお勧めしています。
保険診療ですから、検査診断のうえで処置を行います。
別メニューで自費診療のPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)もありますが、
基本的に保険診療での歯周病治療を行っています。それでも効果は大きいと考えます。
主な処置内容(初診の場合)
保険診療:口腔内検査、歯石除去、機械でのブラシがけ、生活指導など
(料金は3割負担の方で約2500円~4000円程度、保険診療ですので歯周病治療兼予防とお考えください)
PMTC(自費診療):
機械でのブラシがけ、フッ素塗布、舌・粘膜・歯肉の清拭除菌、歯磨きの介助、生活指導など(10000円)
あるデータを見ると、予防によって虫歯の発生本数や歯の残存本数に2~3倍の差が出るそうです。
将来放置すれば20本歯をなくしてしまう人(日本人の80歳での平均喪失歯数がこれくらいです)が、予防によって10~13本は助けられるといったイメージです。これはすごいですよね。
予防に関するデータは世界中で数多く出されています。予防の効果は、みなさんにとって未来のわかりにくいものではなく、統計学的に裏付けられた確かなものであることを知っておいてください。
ここから、「口の中の細菌」と「歯にかかる力」についてお話したいと思います。
虫歯も歯周病も、この2つをコントロールすることで発生・進行を大幅に抑制できます。
「口の中の細菌」については、お口の中の菌数減少によって口臭の予防にもなりますし、風邪や、命に関わるような病気にかかりにくくなる効果も報告されています。
そして、虫歯や歯周病に対する考え方について、みなさんに改めてもらいたいことがいくつかあります。
例えば、虫歯に関して、「砂糖を多く摂取すると虫歯になる。」とよく聞きますが、
この考え方は少し見直す必要があります。
この理論だと、砂糖消費量が日本より多い諸外国では虫歯が多いということになりますが、実際はそうでもありません。
北欧を中心とした先進諸国では、日本よりも砂糖消費量が多いにもかかわらず、虫歯や歯周病の保有率は、日本よりかなり低いです。
例えばスウェーデンと日本を比較すると、ある資料によれば、1人1日当たりの砂糖消費量は、
日本は188kal、スウェーデンは418kcalだそうです。
日本の倍以上の摂取量ですね。肥満の問題は深刻なようですが・・・
しかし日本と比較して、虫歯は半分以下、歯周病は4分の1ほどの所有数です。
ちなみにスウェーデンは世界屈指の予防歯科大国であり、それに対して日本は、予防に関しては発展途上です。
砂糖消費が多くても、予防管理をしっかり行い、原因菌を減らしておけば、虫歯は増えにくいということですね。
従って、「原因菌による影響が大きいので、細菌の除去が最も重要だ」という結論になります。
糖分の摂取は、虫歯もそうですが、生活習慣病のリスクを減らすためにコントロールしてください。
予防処置の効果・必要性について
次に、歯周病です。
まず、歯周病について絶対に知っておいてほしいのは、
「歯周病は、歯を支えている顎の骨が溶けていく病気だということ」
「虫歯と違って、元の形態に戻せないこと」
「抜歯原因のNO.1は、歯周病だということ」です。
写真1と写真2を比べてみてください。
写真1は、定期的に予防来院している当院の健康な患者さん、写真2は、痛みがあるときだけ治療していた、歯の修復も多い、重度の歯周病の患者さんです。
歯を支えている顎の骨の高さが全く違うことがお分かりかと思います。
写真2は、今は当院の患者さんですが、
過去に予防を行わずに、「何か症状が出てから歯科医院に行く」ということを他院で繰り返したようで、このようになってしまいました・・・
お話を聞いてみると、「特に気になることはなく、痛くなかったので放置していた。歯の隙間が大きくなっているのは分かっていたが、年齢のせいだと思い、悪くなっている認識はなかった。」らしいです。
1:健康な状態。歯の長さに対して、顎の骨の高さが十分なのがわかります。
このように、歯周病は、症状なく知らぬ間に進行することが大きな特徴で、意識的に予防をしなければ歯を守ることができない、恐い病気なのです。
2:重度の歯周病。顎の骨は、歯の長さに対して半分以下。写真左下の歯が抜けた部分は、顎骨がクレーター状に陥没しています。
歯周病は、虫歯の治療と違って、修復ができません。
できるのは、ほぼ現状維持だけです。進行してしまったら、元の形態には戻せません。
つまり、歯周病対策は、予防するしか方法はない、と認識しておいてください。
最先端医療である再生治療によって、特定の骨欠損で修復可能なケースもありますが、ごく一部の症例での適応です。
また、歯周病は、認知症や糖尿病、梗塞などの循環器系疾患、早産、誤嚥性肺炎、癌、など、
命にかかわる多くの全身疾患との関連が指摘されています。
そして、親子や近親者同士の「感染」によって、他人(特に幼児)への影響があることもわかっています。
歯周病の予防対策は、歯だけでなく、自分や家族の命を守ることにも繋がるということを忘れないでほしいと思います。
もう一つ、「歯にかかる力」のお話です。
右の写真は顕微鏡で見た歯の表面のものです。
亀裂が入っているのがわかりますよね。マイクロクラックと呼んでいます。
自身では確認しにくい微小なひび割れです。
ここで、虫歯の発生に対する考え方として、知っておいてほしいことがあります。
それは、マイクロクラック内に細菌が侵入して虫歯になることがあるということです。
マイクロクラック
マイクロクラックは、歯への物理的・化学的な力で発生します。
わかりやすい例として、寝ている間の歯ぎしり・食いしばり、過剰なホワイトニングなどです。
しかし一時的な強い力だけでなく、弱い力でも長時間持続するとクラックが発生する可能性があります。
例えば近年問題視されている、TCH(Tooth Contacting Habit)と呼ばれる「上下の歯を持続的に接触させる癖」でも起こり得ます。
TCHは、何かに集中しているとき(テレビ鑑賞中やスマホ・パソコン操作時など)に、気付かずに弱い力で歯を合わせていて自覚がない人がほとんどです。
会話や食事を含めた1日の適切な歯の接触時間は約20分とされているので、接触時間が増加すれば負荷が蓄積してマイクロクラック発生のリスクが上がってしまいます。
そして発生したマイクロクラックは微小なため、クラック内に細菌が侵入してしまえば物理的な清掃は不可能です。
つまり、夜間の歯ぎしり食いしばりやTCHの改善・緩和がマイクロクラック防止→虫歯予防のための有効な手段だと言えるでしょう。
マイクロクラックは、虫歯だけでなく知覚過敏や歯根破折の原因にもなり得ます。
とくに、歯根破折を起こしてしまった場合は、抜歯という最悪の結末が待っています。
自分で自分の歯を壊してしまわないように、「力の対策」をしっかりしておきましょう。